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●死角と車線変更(Blind spot/area and Lane changes)

自動車の運転で常に付きまとう『死角』に対応して安全を確保することは意外に難しい。走行中死角にいた他の車両の存在に気が付いた時、瞬間的な判断と行動が求められ、同時に空間的な余裕の認識が正確にできないと事故を避けられ ない。

車線変更時の死角に関する対応

(1)車線変更の必要性の早期発見
(2)バックミラーやサイドミラーを通して後方の状況の確認
(3)車線変更する側の死角を肩越しに目視確認
(4)状況から車線変更のタイミングを判断
(5)シグナルを出して3秒以内には行動を起こす。この時スピードを上げても、落としても危険。以上のステップを逡巡なくスムーズに行うことがかえって安全を確保できる。

空間的(時間的)に余裕のある判断を助ける方法として、車線変更する側の直近の車までの距離をバックミラーとサイドミラーを通して車両全部が映って見える時をタイミングとするとよい。実際の練習のなかで、一方通行の道路を使って右サイドに路駐している車両の真 横2、3mところに停車させてから、両ミラーを通してその車両全部が見えるところまで進めて距離を認識する。今度は同じステップを左側に移り実行すると、 右と左の死角の距離に違いがあることが分かる。運転席が左にあるためにミラ ーを通して視るアングルにズレが生じ、距離の感覚を狂わせるのでこの練習は大切。左から視る死角の方が右より(10mほど)も長くなる。この違いが左への車線変更をより難しいものにしている。

●路上テストのための練習(Drills for Road test)

路上テストに向けて、リハーサル(予行練習)を行うようにする。 ここでは実際にリハーサル1回につき10分をかけて行う。そのなかで、スタート時の安全確認、シグナリング、スムーズな発進、各コーナーでの正確なターン、パラレルパーキングと3ポイントターン、バックアップ、ブレーキとアクセル、ギアチェ ンジ、ステアリングの安定性、路上での様々な判断の的確さなどを評価して合否が判定される。

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正しい判断/対応 ⇒ 右からの左折の車に優先権があり、その車が左折を完了するまで待つ必要があった。この例は、同じ左折同士の判断でどちらに優先権があるかを問われていたのであって、当然STOPサインがあるあなたが右から来る左折車に優先権を譲る行動を試験官は見ていたのである。

(4)優先道路を右折しようとしたところ、前方から左折の車が近づいて来たのであなたは止まってしまった。

正しい判断/対応 ⇒ そのままあなたは右折してよかった。これも優先権の正しい判断が求められた例である。万一、対面側の車が既に左折の行動に出ているのであれば、優先権は左折車に譲ること。

(5)センターライン近くにあなたに背を向けて歩いている歩行者がふたりいる。追い越すことは無理と思い、あなたは仕方なく歩行者の後ろを静かに追て行くことにした。

正しい判断/対応 ⇒ 背を向けて車道を歩いている歩行者ふたりに対し、早めにホーンを軽く鳴らして注意を促す。歩行者が接近して来るわれわれの車に気づいて車道脇か歩道に戻ることを確認して歩行者との距離を詰めずにゆっくり通過する。歩行者のあとをついて行く判断は間違いであり、その行為は危険である。

※以上はすべてドライバーが失格となった実例である。

●時間と空間の調整(Maintenance of Time and Space)

道路の条件(双方向、一方通行、曲がりの過多、坂道の過多、道幅の広い狭い)、状況(混雑の有無、でこぼこが多い、障害物の過多、道路が濡れている、部分的に傾斜が強い)や環境(住宅地、商業地域)、天候の変化などに従って前後の車間距離や安全なスペースの確保に敏感に対応することが求められる。表現を変えれば、随時適切なスピードの調整を行うことが必要で、ドライバーが陥り易い誤りはスピードに単調になることと言える。例えば、周りの変化に反応しないままスピードを時速30マイルぎりぎりで走っているドライバー、その反対に時速20マイル以下でスピードを出せないドライバーなど速度調整が出来ないと判断される。道幅の広い狭いという変化には、適切なレーンポジションを確保する必要があり、双方向の道路ではセンターラインの有無に係わらずKeep Rightに注意してレーンポジションをとる。一方通行の道路ではレーンポジションを左右に偏らず、道路中央付近を走るのが安全である。このようにドライバーは、周りの変化に対応する状況判断と適切な行動が路上テストで評価されている。

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●潜在的危険性(Potential Hazards)の例

(1)縁石や障害物に不用意に急接近する行為(Pull Overや右のShort Turn)

(2)バックアップして車道に出ようとしている車両
(3)路上のくぼみや小石、その他障害物に対しスピードを落さない、それらを避けようしない行為

(4)路上駐車の車両が多く、且つ狭い道路
(5)車道近くで遊びに夢中になっている子供のグループ

●他のドライバーの行動(Actions of others)

他のドライバーの取る行動や意図を予見する能力を試験官が見定めるが、この予見には基本的な交通ルールの理解が基礎となる。特に道路標識と路面標示、 優先権の理解が重要。ルールの理解は文字上の理解だけでは不十分で、実際の運転経験、体験から理解したものが裏付けとなって他のドライバーを取る行動や 意図を予見することが出来るようになるので、ここでも未知、未体験の道路を出来るだけ多く走ることで予見する能力をつけさせる。

他のドライバーの行動予測の失敗例

(1)道路を直進中、前方の車両が何故かスピードを徐々に落として来た。あなたはそれに対応せず、前方の車が止まったのであなたも止まった。

正しい判断/対応 ⇒ 他の車両の行動に注意して、そのドライバーの意図を予測することが求められている。前方の車両がスピードを落として来た段階でその車両が突然停止しても支障がないようその車両の間隔を詰めずに、必要に応じ車線変更などできるよう準備する。

⑵All Way Stopの交差点で、交差する道路の左側から来る車とあなたは同着したが、迷いがあり、それでも出ようとしたら試験官に突如ブレーキを踏まれてしまった。

正しい判断/対応 ⇒ もともと優先権はあなたにあったのだから迷わず進行する行動が求められた。一旦迷って進行を躊躇したところでまた前に出ようとした行動が他のドライバーに対する危険な行動とみて試験官はブレーキを踏んだ。この場合の対応は左から同着したドライバーに優先権を譲るという行動が正しい。

(3)STOPサインのある道路を左折しようとしたら、右から同じく左折する車が来たが遅いので、あなたは先に行こうとしたところ試験官に止められてしまった。

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(3)あなたは試験官の指示に従い交差点を右折しようとしている。あなたは正面の横断歩道付近に歩行者を見つけた。歩行者は立ち止まったままで、あなたの通過を待っている。しかしあなたは結局車を止めてしまう。

正しい判断/対応 ⇒ スピードを落としてそのまま右折をする。この場合の判断は歩行者がまだ横断歩道に入っていないということ、 その上、歩行者は接近中のあなたの車に気づいて横断歩道を渡る意思がないことを判断して、そのまま右折することが正しい。

●確認不足と優先権の認識失敗(Fail to Observe and Fail to Yield Right of the Way)

日本人ドライバーの多くは優先権については勿論、交通ルール全般において、その狙いを正しく理解しておらず、自分の都合のいいように解釈してしまい本来の目的に適う行動になっていないことが多い。ルールの狙いを正しく理解し、優先権の正しい知識を身につける必要がある。

優先権の認識失敗例

自分の車がSTOPサインで右折しようとしている所へ、左側の交差する道路から接近中の車両がある。今、右折すれば何とか間に合いそうと思い、行動を起こして右折した。しかしこの行動は間違いで、右折するにはタイミングが悪く、且つ、優先権は左から接近中の車にある。この場合、STOPサインの目的を理解していなかったため間違えが起こった。

●車の流れと時間、空間への判断(Judgment in “Traffic” and “Time & Space”)

試験官がテスト中、ドライバーに”Judge space!”と言うことが多い。これは「時間的な余裕」「空間的な余裕」を指していることは間違いないが、それ以外にレーンポジションの取り方、レーン選択についても何か間違えをおかしていることを示唆している場合が多いので、その事を理解しておく。

“Traffic”とは車の流れ、人の動き。”Time & Space”は、単純に時間と空間というわけではなく、安全な車間の距離、すなわち時間的な余裕、危険を避けることのできる充分な空間的な余裕を示している。

※この項目は路上テストで一番採点が厳しくなる。しかも試験官とドライバーの判断上のギャップが生じやすいので理解しておくことが肝心。

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道路中央付近より若干左へ寄って良い場合

道路中央付近まで障害物がある、ダブルパークしている車がいる時は若干左へ寄っても良い。※センターラインを絶対越えないよう運転するものだと思っているドライバーが多いが、これはむしろ「危険な運転(Dangerous Action)」と判断され、失格の原因になるので、注意が必要。

●判断不足と潜在的危険性(Poor Judgement Traffic and Potential Hazards)

路上での判断が未熟で、2~3秒先で起ころうとしている危険なサインに反応していない場合、減点、失格になることがある。危険なサインに反応出来ない理由はさまざまであるが、運転者の注意力欠如と近視眼的になって視野が狭くなっているというのが殆どである。

潜在的危険性の例

(1)路上に駐車中の車のドアが正に開こうしている
(2)対面の車に気を取られ右に寄り過ぎる状態(試験官がそわそわしだす)
(3)左折に気を取られ、接近する車、歩行者が目に入らない
(4)パーキング中、縁石に気を取られ直後の消火栓や立ち木に気が付かない
(5)死角の車、人に注意がいかない等

●判断不足と他のドライバーの行動予測の失敗(Poor Judgement TrafficとFail to Anticipate Actions of Others)

不十分な確認と認識で他のドライバーの行動(動き)を予測できないのは減点、 失格の原因になる。周りに注意を払い、常に他のドライバーの行動を予測することが大事。

他のドライバーの行動予測の失敗例

(1)直前の車両が何故かスピードを落として来たが、そのまま相手に合わせ進行し、その車が突然止まってしまった。こちらも動きがとれず一緒に止まる。

正しい判断/対応⇒ 直前の車が理由もなくスピードを落として来た段階で、その車との間隔を詰めない。その車のこれからの行動を予測して、止まりそうであれば前方に注意しながら速やかに車線変更して追い越す。この例は、前車が速度を変更した時にその車の行動を予測するドライバーの能力を問われている。

(2)私道(Driveway)からバックして車があなたの目の前に出て来ようとしている。 あなたは仕方なく、スピードを落とす。試験官はあなたが何らかの行動を起こすことを期待している。しかしあなたは進路を塞がれ、結局車を止めるはめになった。

正しい判断/対応 ⇒ バックアップして来る車は接近中の貴方の車に気づかない場合があるので、早めにホーンを鳴らしてその車が停止する状況を見極めそのまま進行する。即ち、こちらの優先権を行使する方が安全で正しい方法である。多く日本人ドライバーはホーンを出来るだけ鳴らさないようにする運転をするが、これは正しくない。返って危険な行動であることを認識すること。

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ドライバーと試験官の判断に大きなギャップがあることが多く、それにより路上テストで減点、失格になることがある。初心者は勿論、運転に自信のある経験者でもよく注意し、以下の各項目の理解を深める必要がある。

●通行の妨げ(Impede Traffic)とスピード違反(Speeding)

初心者に対して通行の妨げ(Impede Traffic)、経験者に対してはスピード違反 (Speeding)という判定が試験官から下されることが多い。

例えば、試験官が”Go ! Go !!” “Come on !!” 、さらには露骨に”Speed up !!” と言っているのに、それに対応した行動が見られない、行動に出るのが遅過ぎるといった機敏な対応ができない場合、試験官に「通行の妨げ(Impede Traffic)」と判断されて失格になる。

また、Speed Zoneの認識に欠けて時速10マイル以上のスピードを出してしまった場合、
試験官の判断では「スピード違反(Speeding)となる。Speed ZoneはSchool ZoneやWorking Zoneなど、テストコースによく出て来る要注意ポイントであることを伝える。

※試験管はいずれもこのような判定を下す前に、ドライバーに必ず一度はスピードコントロールに関する示唆を与えているものなので、常に注意を払うこと。それに気づいていない、気づいてはいるがすぐに対応できなかったというのが、減点、失格を招く結果になったと考えられる。

要注意点:初心者⇒機敏な対応、状況判断 経験者⇒スピードに注意する

●右側通行と不適切な走行(Keep Right and Improper Lane of Traffic)

Keep Rightは簡単なようで、アクションが意外と難しい事項のひとつ。路上にセンターラインが描かれていようといまいと、道路中央付近がどこなのかを判断し、その中央付近と思う所より左側へ行き過ぎないように気をつける。ただ、場合によっては道路中央付近より若干左へ寄るのは仕方ない場合があるので、状況によって臨機応変に対応すること。

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● 後退/バッキング

  • バッキングアップとは、パーキング、Uターンの行程で後退するプロセス、またその動きのことをいう。バッキング/後退はよく減点されやすい行為で、試験官の指示によって後退する時は、常に目視による確認を心掛けること。サイドミラー、ルームミラーに頼って後退する行為はむしろ減点の対象になる。

女性の多くは目線の高さの関係から、リアウィンド越しに目視してもほとんど後方の景色(車や人)が見えないことがある。後退に際しルームミラーかサイドミラーを使って動くことはやむを得ないが、その場合でも後方を目視して注意を向けていることを試験官にアピールするようにする。

ストレートバック(straight back/keep back straight)

バックアップは通常ドライバーの判断に任せて後退し、止まる位置を決め、プルアウトする。しかし、試験官の判断によってはバックアップではなく、「ストレートバック」という指示を出される場合がある。これはドライバーが縁石まで余裕を残すことなく接近し過ぎていたり、縁石に平行して止めていない、またこのまま後退すれば縁石に当たる可能性があるからである。

車が縁石に傾いているのであれば、その傾きを後退しながら調整する能力を、また縁石に平行であるが寄せ過ぎているのであれば真直ぐ下がり切る能力を見定めようとしている。
スレートバックと指示されたら、このことに注意して下がり続け、試験官
”STOP !!”というまで止まらずに後退して行く。
ストレートバックの練習はテストを受けるまでに必ず習得しておくことが必要。縁石に対し車両が並行になっているか知る必要上で平衡感覚を身につけることが最も大事。

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  • 2

    安全確認後、右縁石から左に旋回する

    
3ポイントターンは、Broken U-turn 、 K-turn、Y-turn、或いは単純にU-turnと呼称 する。いずれの場合でも試験官の指示があったら、サイドミラー、バックミラーに頼らず必ず目視し、道路の前後から来る車に注意して、まず安全を確認する。シグナルを左に出して、縁石までスムーズに移動する。このステップではいずれの方向からも車の接近がないか常に注意することが重要。ハンドルを左に全部切る。

  • 3

    双方向からの車に注意し、後退する

    今度は縁石から離れて右後方に下がる準備をする。この時も左右の車の流れ、付近を歩行者の通過がないか注意し、安全が確認されたらギアをリバースにシフトして、ハンドルを右に全部切って後退する。この最中も全方位に注意し、後方を目視してバッ クすることが求められる。このステップでギアチェンジをハンドル操作より優先して行うことを忘れないようにする。

    ※車の接近に気がついた時、ギアチェンジを忘れやすいので注意すること。

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双方向からの車に注意し、左に旋回しながらKeep Rightに入りターンを完了する

ギアをドライブにシフトして、ハンドルを左に全部切る。この時に一番注意することは、 進むべき左方向から来る車両に気を取られ、合流する右側からの車両は死角になってしまっているために注意を向けず発進してしまうミスをおかしやすい。更に、進むべき方向にギアチェンジを忘れる致命的なミスが重なることが多い。

※左右または前後から接近中の他の車両や人の接近に気がつかない、発見が遅れるなどのドライバーの注意力不足は、「危険な運転」(Dangerous Action)や交通違反となる他の車両や歩行者に対する優先権の侵害(Fail to Yield Right of Way)、反対車線の侵入(Wrong side of road)の判定を受けて失格になる可能性があるので、十分な注意が必要。